JAM2023二次オーディションの審査員のKomei様・藤原直人様・和佳奈様より審査総評をいただきましたので、公表致します。
Komei様
2次オーディションにご出演された皆様お疲れ様でした。どのグループも非常にレベルが高く洗練されたパフォーマンスで、嬉しい反面審査員としては頭を抱えながら評価をつけさせて頂きました。
私は、常に一貫した審査基準として「伝わる」を重視して採点しています。楽譜再現の正確さ、歌詞の発音やシラブルの音色、フレージング、リズムや言語のアクセントの位置・強弱、抑揚、さらにはステージ上での身体の動かし方や立ち居振る舞い、MCの内容や語調、衣装、表情などの演技面を総合的に観て/聴いて、【表現したい/伝えたいものに対し、違和感がなく(あっても)より伝わりやすくするための効果的なパフォーマンスが出来ている】グループを高く評価しています。
「伝わる」、言い換えると、「人の心が動く」ためには、聴き手の「共感」を引き出すことが重要です。その1音、その1単語、その1仕草の有無や表現の工夫で、受け手の共感の度合いとそこから想起する感情・情景は大きく変化します。今回の私の審査において最後に差がついたのは、自分たちのパフォーマンスを客観的な目でどこまで磨き上げてきたか、その粒度の差であったように思います。
ステージに立って歌うということは、「聴き手の10分を奪う」ということです。その10分は、あるいはどこか別のタイミング(たとえば今際の際、愛する人に別れを告げる時)に、その人が心から欲するような10分だったのかもしれません。だからこそ私たちは、その【10分】を、少しでも豊かな時間にするための努力をしなければならないのです。カバーであれ、コピーであれ、オリジナルであれ、今その瞬間、聴き手の目の前で歌うのは貴方で、沢山の聴き手の【10分】を満足させなければいけない義務を負っているのも貴方です。
自分たちが何を伝えたいか/表現したいかという問いに「アーティストとして」向き合い、より深い部分まで踏み込んだ”自分たちなりの正解”を求め続けることはとても苦しいことですが、私たちは同じアカペラという音楽ジャンルを愛する仲間でもあります。一緒に悩み苦しみながら進んでいきましょう。皆様の益々のご活躍を願っています。
Komei(from “suisai”)
藤原直人様
JAM二次オーディションに参加されたグループのみなさま、素敵な演奏をありがとうございました。そして心からお疲れ様でした。
たくさんの時間をかけて歌に向き合い、何度も何度も練習をした上でステージに臨んでいるグループばかりの中で評価をすることの難しさを感じながらも、精一杯向き合い、責任を持って通過グループを決定いたしました。
全演奏を振り返り、特に感じたことを総評として記載したいと思います。当たり前なことばかりなのですが、改めて重要だなと思ったポイントです。まず「自分たちにとって100点の演奏をメンバー全員が同じ解像度で理解」し、それに近づくためにステージ上で「全員が高いレベルでアウトプットできている」グループは、とても素晴らしいなと思いました。一次審査を経た「上手い」グループばかりが集まる中で、上手さに加えて「良いな」と思えるグループ(今回の通過グループ)については、この点が他よりも優れている印象がありました。
また「聴く人に不用意な違和感を与えない」ことの重要さについても実感しました。
あえて外す(違和感を作る)ことで味が出るパターンもあったりするので塩梅が難しいのですが、ほんの小さな違和感が全体に与える影響は思ったより大きいな、と感じました。
※たとえばですが、とても良い演奏をしているのに立ち位置がちょっとだけズレている・表情がどこか暗い。視覚的には熱のこもった表現ができているのに声が飛んでいない…などなど。そして結局は全体を通じて「聴く人の心に響いたかどうか」が何より大事だなと思いました。
目の前で聴いている人と、演奏している自分たちとの間の距離感(物理的な距離はもちろん、気持ちや空気感の距離も含め)を適切に捉え、どんなバランスでパフォーマンスするべきなのか。ステージに立った瞬間に掴み、実行できていたのが今回通過したグループだったのではないかなと思います。個性あふれる30グループの演奏を聴くことができ、審査員という立場でありながらも本当に楽しいひと時でした。各グループここからさらに磨きがかかり、本戦はより素敵なパフォーマンスを見せてくれることを確信しています。
貴重な時間をいただきありがとうございました!全力で臨んでくれた全バンドに心から感謝を伝えたいです。
和佳奈様
JAMの二次審査大変お疲れ様でした。審査員をさせて頂き、とても光栄でした。どのバンドさんも個性があり、またレベルが非常に拮抗していて、甲乙つけ難く、審査は大変苦戦しましたが、真剣に決めさせていただきました。ここからは全体を通して私が感じた事をお伝えしたいと思います。あくまでも私の意見ですので、全て鵜呑みにせず、取捨選択をして取り入れるところは取り入れてください。
今回全体を通して共通して感じたことをまず3点お伝えいたします。
1点目:しっかりと声を出せているグループが多いように感じました。音響の問題も多少なりとあるかもしれませんが、声量があるグループが非常に多く、驚きました。それに伴い、ダイナミクスの差がほとんどないバンドさんが多かったように思います。大があっても小がない。逆も然りです。緩急もほとんどないため、ストーリー性が見えてきませんでした。これはバラードバンドや洋楽を歌うアップテンポのバンドにも全てに言えることです。緩急があるとリズムもはまりやすくなるのではないかと思いました。
2点目:発声についてです。今回各バンドさんへの講評でも非常に多く、書かせて頂いております。気になった点として、リードとコーラスの声質の乖離が起きてしまっていること。例えば、男声リードでコーラスが女声の場合、男性がものすごく固めの発声で歌われているのに対し、女性コーラスが、声帯が閉じていない声(裏声のような、また弱々しい声)で歌われているグループがものすごく多いように感じました。いくら音程が合っていても、はもっているように聞こえない現象が起きます。そして、これは喉の高さ、鼻にどのくらい響かせているか、口角など。様々な要因が重なると更にはもりづらくなっていきます。そういう意味だと今回”はもる”ことができていたグループさんは限りなく0に近かったのが非常に残念でした。声量で補おうとしても、声自体が”音”になって、飛んでこないので、音圧が上がらないといった状況になります。一人ひとりの声質を揃えること、今一度丁寧に合わせて頂きたいと思います。
3点目:聴き手への意識。JAMの二次審査という緊張感漂う大会での皆さんの演奏。聴き手を惹きつける、聴き手に訴えかける、聴き手を意識しながらパフォーマンス(ステージング)をすることなど。それらができていたバンドさんは、ものすごく少なかったように感じました。まずは簡単なことで言うと目線、そして表情、またステージングなどの身振り手振りなど、どれだけ観客を意識できていたでしょうか。また曲の解釈として、歌詞の意味、歌詞の理解、どれだけできていたでしょうか。そしてそれを聴き手に伝えようとすることを意識できていたでしょうか。ほとんどのグループができていなかった中、できていたバンドが光りました。私は普段シンガーとしてソロで活動もしています。歌う曲の解釈、日本語のイントネーションなど、それらは全て必ず行うことで、体に染みつきました。皆さんの演奏が更に良くなるために、これらのことを少しでも意識してみたら、飛躍的に演奏に説得力が生まれるのではないかと思います。
これまでがほぼ共通して感じた点です。ここからは私が普段アカペラをする上で気をつけていることを6点お伝えします。応用編になりますので、参考にして頂けると幸いです。
①「音楽」に流れを作って欲しい。打鍵の仕方で音色が変わるピアノと異なり、その音が放たれてから、どのように表現するのかに重きを置くといいと思います。オーケストラの弦楽器のようなイメージを持って、ビブラートをかけたり、抑揚をつけたりしながら音楽の流れを作ってください。常に音楽は前に前に進むように。電子音に慣れてぶっきらぼうな音にならないように、投げたら弧を描いて戻ってくるブーメランのような意識で歌うといいと思います。
②1曲を通して、どの部分を最大の見せ場としたいのかをグループ内で共有・表現するとよいと思います。バンドの良さが1番伝わるのは、どこの部分なのか、どの要素なのか。そしてそれを、際立たせるために必要な音楽表現は何かを緻密に組み立てること。単に音量の問題ももちろんありますが(音楽記号で強弱を極める)感情的な部分という意味もあります。
③フレーズの長さをもっと意識できると良いと思います。①の流れができるようになると更に長いフレーズを作りやすくなっていくと思います。リードの歌い方はもちろん、単にaで伸ばすだけのコーラスにも、フレーズがあります。それを2小説から4小説、4小説から8小説と更に長いフレーズをつくれるように意識しましょう。そうすると、自然と聴き手がその流れに身体を乗せることができるようになると思います。
④自分の声の良さが最大限に生かされる音域を設定すること。アレンジャーであれば、メンバーの1番出しやすい(単に高い声が出る、とかではなく1番いい声がでるという意味)音域で楽譜を書くと、はもりやすくなると思います。苦しそうに出す音と出しやすい音とどちらがハモリやすいか考えた時に、その差は歴然だと思います。そして冒頭で挙げた、声質を意識して、女声コーラスは地声を出せる音域を探る。
⑤前奏でどれだけ聴き手の心を奪うかがとても大事になってくると思います。今回のような大会なら尚更、最初の印象というのは最後まで払拭できないことが多いです。逆に最初の印象が良いと、前のめりになって聴いてもらえることのほうが多いと思います。先程申した、1曲の中の最大の見せ場の次くらいに力を入れ、前奏に重きを置きましょう。
⑥アカペラとは足し算では無く、引き算なのかなと私は考えます。今回のJAMではリードが埋もれてしまっていたバンドが多くありました。また声質の違いから、一体感がなく、1人1人の声がばらばらに聴こえてしまうなどといった場面が多く見受けられました。マイキングによるバランスの調整はあまり意識出来ていなかったのではないかと思います。マイクを近づけて声量を下げるのではなく、いつも通りの声でマイクを遠ざける。それを場面場面で変えながら、バランスを探っていく。ポテンシャルの高い皆さんなら器用にそういったことができるかと思います。
以上、長々とお伝えしましたが、音楽には正解はなく、皆さん全員が正解です。上記はあくまでも平均点を出すための手立てであって、満点を出せるかどうかは皆さん次第だし、聴き手次第だと思います。どれだけ多くの聴き手に刺さるか、それは技術面ではない場合もあったりすると思います。とにかく、何より大切なのは、”音楽を楽しむ”ことなのかなと、小学教諭みたいなことを言いますが、それが1番聴き手に伝わるのではないかなと思います。私も日々試行錯誤してます。歌うことの意味、考えてます。楽しめない時もあります。そんな時はグループの自分の役割と本来のアカペラの楽しさを是非思い出してください。
数々の素敵な演奏をありがとうございました。1観客として120%楽しむだけの時間だったらいいなと思いながら審査をしてました。本選に進んだ皆さんが、ベストを尽くすこと、今回残念だったバンドさんの今後の何か糧になること、を大いに期待して、私からの講評とさせて頂きます。ここまで読んでくださってありがとうございました。アカペラ最高〜!
※審査員の方々は50音順で掲載しております。
Japan A cappella Movement 2023 実行委員会