JAM

JAM2024 二次オーディション審査員の、Komei様・つじむ様・ファレル様より審査総評をいただきましたので、公開いたします。

公開が遅れましたことにより多大なるご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。

Komei 様

JAM2024二次オーディションお疲れ様でした!出演された皆様をはじめ、運営スタッフ・技術スタッフの皆様のご尽力のおかげで、真剣に皆様の音楽と向き合う充実した時間を過ごすことが出来ました。まずは御礼申し上げます。
今回の審査においては、各グループの基本的な技術レベルの高さに驚かされました。「楽譜に記載された音符を正確に再現する」という点においては、いずれのグループも素晴らしいクオリティでした。日頃の練習の積み重ねやステージへの強い想い、緊張に負けない集中力と勇気に敬意を表します。一方で、「楽譜再現のその先」をどの程度追及しているかという度合いはグループによって差があり、それが今回の審査結果に繋がったように思います。具体的には、以下のようなポイントに着目しました。

  1. 母音・音色のバリエーションと音楽的効果

今回のオーディションに出演されたグループを含め、現在のコンテンポラリーアカペラの大半のグループでは母音(=音色)のバリエーションを十分に活用出来ていません。人間は言語の内容だけでなく、その言い回しから相手の感情を推察してコミュニケーションする生物であり、その「言い回し」の時に子音や母音の発音は大きく変化します(元気な「おはよう!」と落ち込んだ「おはよう」で言い比べてみてください、母音の形も子音の強さや長さが変わるはずです)。言い換えれば、適切な子音や母音の発音を行うことで、コーラスのシラブルなどの歌唱場面で、言語の支援がなくとも間接的に感情を伝えることが可能になります。リードボーカルの表現している歌いまわしの中から、表現したい感情に適した母音の形を拝借してコーラスに流用したり、逆に別々の感情を表現することで二面性を設けたり等、相手に「伝える」ための発音面でのテクニックの追及に挑戦してみてください。
また、バッキングに奥行きを出してリードボーカルを浮き立たせる際にも母音のコントロールは有効です。全員が「声」という楽器である特性上、全員が同じような音色で同時に発声するとリードボーカルが埋もれてしまう音楽上の欠点がありますが、楽器の音色に寄せた母音や、声の指向性のコントロールでコーラスは前ではなく上や横に広く鳴らす意識をする等で音色を変化させると、音量感そのままにリードボーカルが浮き上がって聴こえるようにすることが可能です。元気な曲を演奏するグループなどは特に効果的ですので、ぜひ試してみてください。

  1. 楽譜の理解と進行力のコントロール

多くのバンドが技巧を凝らした複雑な楽曲に取り組んでおり、再現自体は十分な精度で出来ていました。一方で、楽曲が複雑になればなるほど、解釈や理解にかける時間も十分に確保する必要があるように感じました。「なぜその場面でその和音を用いたのか」「このフレーズはどんな情景をイメージして書いたのか」といった作譜上の意図を推察し、その上で自分たちなりの解釈をして表現に落とし込むという作業をどこまで重ねたかが、演奏の説得力として顕れてきます。技術的な難易度だけでなく、楽曲全体やパフォーマンス全体を通じてどのような感情やメッセージを伝えるのか、そこから逆算して今のセクション・今の一音をどう歌えばよいかを全員が理解することが大切です。
また、楽譜への理解は楽曲進行のスムーズさや客観的に聴いたときの音楽的な自然さにも大きく影響します。自分の出している音は次にどのように繋がるのか、自分以外のパートがどのような動きをするのか、自分と他パートとの関係性、今の音と次の音との関係性などの把握と、音から音、小節から小節、フレーズからフレーズ、4小節8小節、メロサビ、1番2番、1曲目2曲目…と、より大きな視点から現在の音をどう演奏すべきかを感じ考える習慣を意識することで、一つのコンテンツとしての完成度が大きく上がります。まずは互いに楽曲に対する印象や感覚を言語化して共有したり、それぞれのパートを全員でユニゾンで歌う練習をしたりすることで、楽曲の流れや構造と解釈の共有を進めていくことをおすすめします。

  1. ノンバーバルコミュニケーション 

音楽はコミュニケーションツールです。コミュニケーションには、バーバル(言語)コミュニケーションバーバルとノンバーバル(非言語)コミュニケーションの2種類があり、情報伝達におけるノンバーバルコミュニケーションの割合は9割を占めます。また、人間は情報の8割を視覚から得ているとも言われます。つまり、耳から入るバーバルな演奏情報は、ノンバーバルな視覚情報で印象が容易に操作されてしまう可能性が高いということです。緊張した環境下で難しいことは理解できますが、表情や動作のぎこちなさ、目線のぶれなどは印象を悪化させ音楽そのものの力を弱めてしまうことがあります。また、身体のこわばりは出音の硬さやリズムの余裕のなさに、手で取った拍はフレーズの不自然な拍のアクセントに繋がる等、身体と音には密接な関係があります。リラックスするためのルーティーンと自信、そしてステージ上で楽しむ余裕を持つことを心掛けてみてください。また、コミュニケーションの基本は、「相手の目を見て、仕草や表情などの様子を観察し、言葉で問いかけ、共感・反応を得る」の繰り返しです。それがステージと客席という位置関係であっても、1対多であっても、コミュニケーションの基本は変わりません。観客の一人一人ときちんと向き合ってコミュニケーションを取れるグループは、その場・その空間を自分たちのものとして支配出来るようになります。ぜひ、今自分が歌いかけている人が誰なのか、どこなのかを明確にして歌を届けてください。

  1.  アカペラの「常識」を疑う

6人全員が横並びになって演奏をするというアカペラのスタンダードな隊形は、一般的な音楽の演奏スタイルとしては実はかなり珍しいスタイルです。目線が合いにくいためにグループ内のコミュニケーションが取りにくく、また観客の視点もリードボーカルに集まりにくく視覚的な面でリードを埋もれさせています。アイドルグループのように、全員がそれぞれ異なる個性や魅力があり、同レベルのパフォーマンスで耳目を集めるのが前提となる隊形です。過去、同質性の高いアカペラの世界では、リードよりもハーモニー全体を鑑賞する傾向、演奏者がみな知り合いの知り合いのような状態による演者それぞれの注目度の均等化、専門性の高いパート同士が互いに注目して鑑賞する状態などで、横並び6人の隊形に対するデメリットや違和感が気づかれずにいました。現在は、ストリートイベント・動画投稿などの露出も増え、知らない人が知らない人のパフォーマンスを観る、という環境に変化してきました。より厳しい、より一般的な音楽ジャンルに近しい環境に順応するためには、「いま誰を見るべきか、いま観客はどう盛り上がるべきか、いま観客は何を感じればよいか、そのためにどのようなパフォーマンスすればよいか」という問いの答えを、今までのアカペラ的スタンダードからではなく、一般的な音楽ジャンルのパフォーマンスの中から見つけ出し、新たなアカペラスタンダードとして根付かせていく必要があります。今回のJAMがその歩みを前に進めるきっかけになってくれることを願います。

今回の審査を通じて、皆さんが音楽に注ぐ情熱と絶え間ない努力を強く感じました。そのひたむきな姿勢は、音楽を愛する者として、深い感銘を受けると同時に、同じアカペラアーティストとして心から敬意を表します。各バンドが限られた時間と条件の中で自らの表現を研ぎ澄まし、ステージに立った姿は、音楽そのものに対する誠実な向き合い方の証です。審査を務めさせていただいたことに感謝しつつ、これからも皆さんが一層輝かしい音楽の道を歩んでいくことを心より願っています。一緒に頑張りましょう!

つじむ 様

今回JAM2024二次オーディションで審査員を務めました、つじむと申します。総評ということで、私からは2点書かせていただければと思います。

①試行と錯誤の往復について

今回の二次出場グループには、コンセプトや独自の世界観を持って活動している又は大会に臨んでいるグループが多かった印象です。もちろんJAMという大会に関わらず、「こういう曲をこういう風に歌うグループ」や「こういう雰囲気 のグループ」というように、アカペラグループを組んでいる皆さんの中には何かしらのカラーを決めて活動されている方が多いかもしれませんね。そしてそのカラーを表現するために様々な試みを行っていることと思います。例えばアレ ンジ、衣装、ステージング、抑揚、場合によっては試せるものは全部試しているという方もいらっしゃるかも知れません。
ここでひとつ、今回のオーディションを審査して全体的に課題だなと感じたことがあります。それが「試したいことを試したままになっていないか、試した結果に興味を向けることができているか」という点です。”こういうグループを 目指して、こういう風にやってみました!”で終わってしまっていないかという点について私は言及したいです。
試した結果、自分たちの目指すものになれたのか?足りないものはあったのか?この類の質問の答えは、演者としての主観的視点のみではなかなか浮かび上がってきません。
もちろん、皆さんが理想を追求し磨き上げた一つひとつのパフォーマンスを私はリスペクトしていますし、受け取り手からの意見を鵜呑みにしろという訳ではありません。ただ、皆さんが努力して磨き上げた輝きを見た人が、それに対し てどのような価値を見出したのか、あるいは見出せなかったのかをもっと知ろうとして欲しいなと思うんです。 何度だって錯誤はあって良いと思います。その錯誤に気づくことができれば気づけた分だけ試行との往復が生まれ、決して 遠くない未来、自分たちが求めていた評価と受け取り手の評価との合致という形で実を結ぶことができるのではないかなと思います。

②与える情報の取捨選択について

二次審査は実地審査ということで、今年も二次出場グループの皆さんは観客と審査員の前で演奏を行いました。一次と明確に異なるのはこの時審査員の「耳」だけでなく「目」があるという点です。もっと細かくいえば肌で感じる空気感 とか色々あるんですが、目と耳に限ってお話すると、演奏そのもの(聴覚情報)と演奏する皆さんの姿(視覚情報)との擦り合わせの結果がパフォーマンス全体の印象になるということなんです。擦り合わせという言葉を使ったのは、情報が少な すぎても多すぎても良くないからです。 例えば、静かなバラードなのに身振り手振りが無意識にうるさかったり、明るいポップスなのにステージングが振り切れていないなど、不釣り合いが浮き彫りになると、受け取り手としては迷ってしまうわけです。なぜそのような演出を かけたのか、なぜそのような抑揚をつけるのか、自分たちで納得した上で届けることはもちろん、たった10〜15分の限られた時間で受け取り手をも納得させてほしいのです。 そのためには、なるべく必要な情報に絞った方が良いと思いますし、足りないものは補った方が良いと思います。特に今回の二次オーディションではハーモニーの鳴りの大きさを売りにしているグループが多かった印象ですが、大きさ を全面的に出していくことで犠牲になるものがあるという点を分かって上手くバランスを取れているグループ・そうでないグループの差は結構大きかったなと感じます。 皆さんの今後の活動に還元できそうなことがひとつでもあったら幸いです。改めて今回はJAM二次オーディションの審査に携わらせていただきありがとうございました!

ファレル 様

出演者の皆様、JAM二次オーディションお疲れ様でした。
毎度のことながらレベルの高い演奏がずらりと並んでおり、審査をするにもなかなか苦労しました。

今回の審査において、自分の中で結果が分かれたポイントは「視覚と聴覚のバランス」です。
一次とは違い「ステージ」を見て審査をする以上、音に加えて立ち振る舞いや表情も非常に重要になってきます。例えばノリノリな曲を演奏しているのにずっとうつむいて表情が暗い、しっとりとしたバラードを歌っているのに満面の笑みを浮かべているといったステージを見たら、バランスの悪さが違和感として前面に出てきて、そのせいで集中できないままステージが終了してしまうと思います。極端な例を出しましたが、その違和感が少しでもあるかどうかで観客のステージへの引き込まれ具合は大きく変わってきます。特に審査員という立場があると良し悪しの評価をつける必要があるため、より違和感に気づきやすいものです。
多少バランスが悪くてもそれを凌駕する音の良さ、あるいは立ち振る舞いの良さがあれば挽回は可能ですが、バランスが悪い=一方の良さを残りの片方が打ち消す方向に働いてしまい、相当なレベルのものを要求されてしまうので、どちらもレベルの高い状態でバランスが取れていてほしいなと思います。
自分たちがステージでどう魅せたいのか、どう聴かせたいのかを考えたうえで表現することはステージ審査において必須だと思っています。一人が違う方向を向くだけで大きなずれを生んでしまうので、バンドメンバー全員が同じ意識を持ち、視覚と聴覚が高い水準でバランスを取れている状態を目指してください。

※審査員の方々は50音順で掲載しております。

改めまして、審査員をお引き受けくださいました、Komei様・つじむ様・ファレル様に深く御礼申し上げます。

質問やお問い合わせは CONTACT よりお願いいたします。
引き続き Japan A cappella Movement をよろしくお願いいたします。

Japan A cappella Movement 2024 実行委員会